自分が愛する大切な人の命が奪われた場合、借りはきちんと返すべき
私は小説を書くうえでの核となる部分、すなわちテーマというものは根本的には三つしか存在しないと考えています。それは「奪還・獲得・復讐」。この三つです。
奪還は自分の大切な物(あるいは人)が何者かに奪われたとき、それを相手から奪い返すということ。獲得は新たになにかを得る、ということ。復讐は自分にとって大切な人(たとえば恋人・親兄弟)などが傷つけられたり殺されたりしたときに、相手にやり返すということ。小説という、いわば空想の世界ではありとあらゆるストーリーが展開されると思いますが、どのような方向性で考えたところで、結局はこの三つの中のどれかにあてはまるともいえるのではないでしょうか。その作品がもつ表面的な内容ではなく、あくまでも根本的な話です。違う意見もあるかもしれませんが、私はそう思っています。
あくまでも個人論ですが、小説というものは「人の心」を描くものだと勝手に解釈しています。でも、人の心とはいってもごくありきたりな人間の想いを物語りとして文章に起こしたところで、それはなにも面白くはない。人間同士のいがみ合い、しがらみ、憎しみ、恨み、そのようなどろどろとした人間関係の中で主人公がひたすら悩み苦しんでどこまでも葛藤する姿を描く――それが小説だというものではないでしょうか。もちろん、一概にはそう言い切れるものではないとも思えるし、例外もあるのだと思います。けれども、個人的には主人公が奈落の底に突き落とされ、人生の崖っぷちの追い込まれて、散々苦しみながらの障害を乗り越えて自分の目的を最後には達成する――そのような物語が、自分にとってはベストなのだと、これもまた勝手に解釈しています。そう、すべては勝手にです。実際、私はこれまで何作か小説を書いてきましたが、そのほとんどには「復讐」というこだわりが含まれていて、ほぼ例外なく主人公は最後に目的を果たしています。
すべての作品は復讐で統一
アマゾンキンドルにて最初に公開した小説は「復讐の夜に雪が舞う」という作品で、これは文字通り、重森雅也という主人公が物語の最後に復讐を成し遂げる、というストーリーです。まさに単純明快。それ以上でもそれ以下でもありません。物語の舞台には生まれ故郷でもある秋田県秋田市を選びました。ストーリーとしては東京杉並区にある方南町という地域からはじまり、そのあとすぐに川崎へ、そこからある程度の展開を経て最終的には東北の秋田県秋田市へ。秋田市とはいってもメインとなるのは川反という秋田市内随一の飲み屋街です。
個人的な話にはなってしまいますが、私は高校を中退しており、そのあとろくに職にも就かずに1年くらいふらふらとしていた時期があります。そのときは毎日パチンコをしたり、中学時代の悪友とつるんで遊んだりと、なにも意味のない生活を送っていました。私はその当時パチンコにとても凝っていまして、そのときも川反通りにある文化センターというパチンコ店(いまはありません)に足繁く通っていたのです。もちろん、ろくに勝つこともありませんよ。金の無駄遣いです。
水商売との出会い
ちょうどこのころです。私が水商売というものを知ったのは。当時は高校を中退したばかりだったので年齢は17歳です。もちろん、夜の仕事に従事できる年齢ではありません。それでもなぜか水商売という仕事に強烈な魅力を感じた私はいつのまにか夜の大人の世界へとどっぷりと足を踏み入れていたのです。
とはいっても、私の人生における初の水商売体験。それは川反では山王という、いわば秋田市内でいうところの第2の飲み屋街ともいえる場所でした。友人と二人でどきどきしながら面接に行ったお店、業種はホストクラブ。もうだいぶなので店名を明かしますが「アマン」というお店です。
その後は川反のキャバレー(いまでいうピンサロ)で呼び込みをやったりウェーターをやったり、と次被衣へとお店を転々としていたのです。色々なお姉さんとの出会い、そして実に個性的な男性従業員との出会い、いまおもえばそれそれは私にとっていい思い出として残っています。
そんなこんなで、私は川反という夜の街には深い記憶が多数あります。今現在は東京に住んでいますし、上京してきてからはもうかなりの年月が経過していますが、当時の記憶や想いを小説として反映させたのが「復讐の夜に雪が舞う」なのです。
のちに公開した「復讐の十字路」に間にしても、最初は東京が舞台ですがすぐに秋田県秋田市へと移り変わります。この作品は端的にいうと現金輸送車を襲撃して3億円を強奪した主人公が秋田県へと逃亡を図るという内容で、同じくストーリーの大半が秋田市での内容で構成されていますし、また川反もでてきます。
4作目に公開した「黒船の十戒」も然りで、この作品に関してはメイン舞台がまさに川反そのもの。作中の90%は川反という小さな飲み屋街でのシーンで埋め尽くされています。
前述したように、いずれの作品も主となるテーマは「復讐」すなわち"敵討ち"。
殺られたら殺りかえす――誰が聞いても意味は歴然で、このわかりやすいテーマは、私が小説を執筆する際の一番好きなワードでもあるのです。